9月25日火曜日
富士山好きの義父はとにかく話す。
すれ違うすべての人と会話する。
「頂上行きました?」とか「お鉢巡りやりました?」とか。ほとんどが長話になる。
お鉢巡りを終えたのは午後3時30分頃だった。
だいぶ陽も傾いている。
来週末にはレースも控えているのでトレーニングには都合が良かったので、焦りはなかった。
「そろそろ下りますか。」と下り始める。自分達の後ろにはだれもいないし、人とすれ違うこともほぼなかったから下りはスムーズに行けた。
九合目、八合目と順調に下る。
しかし途中から雨が降り出した。よく見るとあられだ。
雨具に八合目で着替えた。準備はしていたのでとくに問題はなかった。
七合目では「素泊り、当日OK」なんて看板があり「ここはまだ山小屋やってるんだあ」と思いながら通り過ぎた。下りと登りの山小屋は違うんだとも思った。
六合目の手前に着て義父が「あれ、なんか違うなあ?」と言い始めた。
「富士吉田口じゃなく、須走口ルートに来てるなあ」
名ガイドが迷ガイドに変わった瞬間だった。
その場所から富士吉田口ルートに戻るには八合目まで登り返さなければならない。
「おれの青春返せ!」
と愕然としたが焦ってもどうにもならない。
既に午後6時30分になろうとしている。辺りは薄暗い。
義父はライトを今回持っておらず、おれのライト一つで戻らなければならない。
食料や水分がなかったおれに義父はカルピスウォーターをくれた。
おれはストックを持っていたので片方を義父にわたした。
こうなったらチームだ!助けあうしかない。
山岳耐久レースだ!ハセツネだ!
アドレナリンが湧いて来た。
かなり遠くにいくつかの電灯が見える。それが七合目だ。
近くには登りとは違う横にトラバースする道も見える。
「これ、富士吉田ルートに行けるんじゃないっすか?」とおれが言うと、迷わず「登ろう」義父は行った。この距離を考えると気が遠くなりそうだった。
登り始めるとすぐ濃い霧に包まれて七合目の灯りも見えなくなった。
続く。
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