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2011年10月27日木曜日

相馬剛選手 レースレポート:第19回日本山岳耐久レース ハセツネ

2007年・・・何もわからず、勢いだけで日本山岳耐久レースを勝った。
それから4年。
4年という歳月は、僕にとってどんな意味があったのだろう?
その結果がもうすぐわかる。


今年は春先に一時調子を落としたが、9月に入り、ようやくレースに向け集中力が高まってきたようだ。
ただ、昨年からバイクトレーニングを月間1300kmほど取り入れたため、その分、ラントレーニングが450kmくらいまで減った。
それまで、月間700km以上走っていたから、「これだけ走ったという拠りどころを失った心はどこかで不安を感じている。
私達、アマチュアのアスリートは、多くのことと折り合いをつけながら競技を続けている。
それは当たり前のことだし、そのことを恨めしく思うことはないのだが、時々、それを言い訳にしそうになる自分がたまらなく嫌だ。
なにはともあれ、僕は今年もこのレースを走り、そして勝つためにやってきた。


スタートライン。
いつもどおり、最前列から少し下がった右端に立つ。
目を閉じて、レース中に起こるもっとも辛い場面を想像する。そして、それを克服する自分をさらに想像する。
僕がレース中に最もおそれているのは、辛さに対し、自分の心が折れてしまうこと。
長いレースでは、心を常に前へ向けていることはとても難しいし、予想外のレース展開やトラブルに見舞われればなおさらだ。
僕には心に刻んでいる一つの言葉がある。それは、鏑木さんの言葉

「ゴールまでに全ての力を出し切る」

これ以外に何があるだろうか?
順位やタイムは、相対的なものであり、自分と他の選手の関係性の中で決まるものだ。 
しかし、全力を尽くすことは唯一、確かなものとして自分の中に残る。
少なくとも僕にとっての「走る」ことの魅力や楽しみは、全力も尽くさずに笑ってゴールすることではない。

10月23日13:00、72kmの最初の一歩を踏み出す。
これから待ち受ける困難を知っているから、気持ちの高ぶりはない
前には30人ほどの選手がいる。
スターティングリストを見ていないので、詳しくわからなかったが、どの選手も優勝を狙い、そして、その実力を備えた者達だ。

数kmのロードを経て、トップでトレイルへ。
5、6人のトップグループが形成された頃を見計らって、若干ペースを上げ、他の選手のコンディションをチェック。
トレイルや自分の状態も含め、後の選手の息遣い、アップダウンの走りなどを感覚的に捉える。

拷問ともいえるアップダウンを繰り返し、第1関門の浅間峠に到着
すぐ後には1人の選手。

奥宮 俊祐。

驚きはしない。僕は彼の速さ、強さ、そして怖さを知っている。
尊敬している選手の1人だ。
この時点で、僕は最後まで彼とトップを争う覚悟を決めた。

ほんの少しの疲れを感じ、三頭山山頂へ。
ここからは、標高的には下り基調になるが、実際には細かいアップダウンが続き、下り部分も荒れたトレイルが多い。
さらに雨の影響でトレイルが少しスリッピーで思いのほかペースが上がらない。
後続との差を広げることはできたが、実は予想以上に脚にきていた
簡単には勝たしてくれないだろう。どんなレースでも楽勝なんて有り得ない。

第2関門の月夜見峠。
あいにく濃い霧に覆われ、夜空に月は見えないが、そのかわり、イドステーションの灯りが一瞬、体の疲れを忘れさせてくれる。
ここから、さらにペースが落ちる。
例年、御前山あたりで一気に気温が下がり、オーバーヒートした筋肉が冷やされ、再び脚が動き始めるのだが、今年は生温い南風がいつまでも吹き続けている。
コースレコードが難しくなり、辛さに負けそうになるが、あの言葉を思い出し、どうにか心を正しい方向へ導く。

大岳山は最後の大きな上り。
ここまでほぼ1歩も歩くことなくきたが、ここの鎖場だけは足だけでなく手も使って攀じ登る。
僕は下りが下手だ。だから、上りも走ってタイムを稼ぐしかない。これが自分のスタイル。

いよいよ、金比羅尾根に入る。
2007年、奥宮選手とのデットヒートの中で感じた、山との一体感・・・自分が山に溶け込んでしまいそうなあの感覚。
残念ながら、今年は感じることができなかった。自分はいろいろなことを知り過ぎてしまったのかもしれない。
いつの日か再び、心の鎧を脱ぎ捨てて、山と純粋に向き合いことができるだろうか?

トレイルを抜け、住宅街が見える。僕はこの瞬間が大好きだ。
結果の良し悪しで喜びの度合いは変わるが、この安堵感はいつだって同じ。
「もう走りたくない」そう思ってゴールできることが一番の幸せなんだろう。

また、ここへ戻ってきた。
誰よりも早く。
心の中で「ただいま」と一言呟いた。


過去は変えることができない。
けれど、「今この時」を精一杯生きれば、その過去に意味を持たせることはできると思う。
この4年間、いろいろなことを経験し、喜びや苦しさも味わったが、なにより、その中で多くの人との出会いがあった。
今僕は、自分にとって4年という歳月は、必要な時間だったと自信を持って言える。

これからどんな未来が待っているのだろう?
未来を切り開く力も、「今この時」にかかっている。

目指すべき山の頂は見えない。
しかし、山頂へ向かって1本の険しいトレイルが延びている。
どうやら、この道を走り続けるしかなさそうだ。

          2011年秋  トレイルランナー 相馬 剛